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エンジニアリングは課題解決のためにある
(別府俊幸、『エンジニアリング・デザインの教科書』より)

「科学とは自然現象の追求であり、工学は科学的知識の応用である」との考え方があります。あるいは、「工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である 」とした定義もあります。


 けれども私は、これらの考え方や定義に賛成ではありません。「クライアント課題を解決する製品やシステムのデザイン」、これこそがエンジニアリングであると考えるからです。
 たしかにエンジニアリングでは、「物理・化学的現象」を使って製品やシステムを作ります。たとえば、振り子は一定の周期で動きます。17世紀にはこの現象を利用して時計が作られました。現代では水晶振動子に電圧を加えて同じ周期の振動を取り出していますが、どちらも物理的現象を用いています。しかし勘違いをしてはいけません。エンジニアリングの目的は、「現象を利用する」ことではありません。「クライアント課題を解決する」ことこそ、エンジニアリングの目的です。現象は、その課題解決に用いられるひとつのパーツであり、それを「基礎」として、製品を作るのではありません。どの現象を使うかはエンジニアの選択です。モノを固定するのに最適サイズのネジを選ぶように、目標とする製品をデザインするために最適の物質的現象を選びます。


 自然現象があるだけでは、デザインは生み出されません。数学も同じです。数式をいくらひねり回しても、iPadもプリウスも答に出てきません。エンジニアリングは科学的知識を使いますが、それはクライアント課題を解決するための「手段」のひとつなのです。

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