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「工学」とはなにか

  • 執筆者の写真: Toshiyuki Beppu
    Toshiyuki Beppu
  • 2024年9月4日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月14日



 私は、40年以上も前ですが、大学の工学部を卒業しました。そこでは「工学」とはなにかを習った記憶はありません。(真面目に授業に出席していませんでしたので聞き漏らした可能性は否定できません)。

 でも、工学とはなにかを教わっていないのは私だけではないようで、大学や高専で学生さんたちに話をしたときに、

「君たちは○○工学科だよね。じゃあ、『工学』って『なに』と習った?」

と尋ねても、答が返ってくることはありません


 手元の辞書(三省堂『大辞林 第3版』)には、「科学知識を応用して、大規模に物品を生産するための方法を研究する学問。広義には、ある物を作り出したり、ある事を実現させたりするための方法・システムなどを研究する学問の総称。」とあります。さすがに日本語の先生方が考えた定義です。なかなかに的を射ています。けれども、ちょっとズレていると感じます。

 あるいは、工学教育に携わる先生たち(工学における教育プログラムに関する検討委員会(1998年))は、「工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である。」と定義されています。なんとかまとめ上げた感がありますが、「基礎」ということばに違和感を覚えます。


 私は、これらの定義に賛成ではありません。「クライアント課題を解決する製品やシステムのデザイン」こそが工学の役割であると考えるからです。


 たしかに工学では、「物質的現象」を使って製品やシステムを作ります。たとえば 17 世紀には、一定の周期で動く振り子を利用して時計が作られました。現代では水晶振動子に電圧を加えて同じ周期の振動を取り出しています。このように「科学的知識」として記述可能な物質的現象を用いています。

 しかし、「科学的知識を用いること」すなわち「現象を利用する」ことは、課題解決のための手段です。「クライアント課題を解決する」ことこそ、工学の目的です。物質的現象は、その課題解決に用いられるひとつのパーツであり、それを「応用」あるいは「基礎」として製品を作るのではありません。どの現象を使うかはエンジニアの選択です。モノを固定するのに最適サイズのネジを選ぶように、目標とする製品をデザインするために最適の物質的現象を選びます。

 科学的知識があるだけでは、デザインは生み出されません。数学も同じです。物理法則や数式をいくらひねり回しても、スマホもインターネットも出てきません。エンジニアは科学的知識を使いますが、それはクライアント課題を解決するための「手段」のひとつなのです。


 ですから、工学とは「物質的現象を利用したクライアント課題の解決法」と定義します。このように考えることによって、いろいろなことが見えてきます。



 






 
 
 

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